皆さんは、『ボニュ』というレストランをご存知だろうか?
食べログでは4.5点以上のフレンチレストラン、という説明は事実ではあるけれど、これではボニュの本質を全く説明できていない。
フレンチレストランという枠では全く収まり切らないと思うし、既知の高評価フレンチレストランと比べても、かなり異質のレストラン。
http://www.bon-nu.jp/concept/index.php
↑ボニュのコンセプトなのですが、とんでもないことが綴られているのです・・・
極限までシンプルさを追求しているのに、オリジナリティがある。
ほぼ全ての料理において、食材+塩+水しか使われておらず、たまに加える調味料といえばオイルくらい。
シンプルな料理といえば和食が思い浮かぶのですが、その和食のシンプルさですら、ボニュ的にはシンプルではないとのこと。
一体どんな味がして、どんな体験をさせてもらえるのか・・・
予約を取ってから訪問の日までを、毎日指折り数えながら、ついに訪れてきましたので、その体験を詳細に綴りたいと思います。


こちらが当日のコース。
このメニューを見るだけでも、ボニュがかなり異質なレストランであることが伝わります。
楽しみで仕方ない!!

まずは食前酒のシャンパーニュで喉を潤します。
炭酸の弾け方がとても上品で綺麗で、最上級のシャンパーニュであるということが一口飲んだだけで実感できます。

1.ビーフジャーキー
純血牛の見島牛のスネ肉のビーフジャーキー。
凄い。
まず香りが違う。
知っているビーフジャーキーと味も香りもまるで違う。
特に香りが全然違って、ガレットブルトンヌとか、サブレのような、バターたっぷりの香ばしい焼き菓子のようで、深く甘い香り。
味が非常に澄んでいて、コクが合って、甘い。
鳥肌が立った。

2.自然 〜太陽・空・土・草〜
30種類の野菜にトマトベースのドレッシングを自ら和えていただく。
まず野菜がシンプルに美味い。
そして個々の野菜の個性が生きていて、トマトベースのドレッシングが全体を完璧に調和させていて、塩分などの尖りが全くないのに、何も不足を感じない。
説明不可能な美味しさ。

3.自家製パンとバター
表面が極薄でパリッとした皮目に歯を立てると、密度が低いフワッフワの中身が現れるコントラスト。
食感は恐ろしく軽いのに味が濃い。
石臼挽きの全粒粉のような味わい。
甘み、旨味、ほのかな酸味が同居している。
バターも恐ろしく美味しい。ミルク感が強く、コクがあるのに軽い。
個人的には、パンの生地自体がとても美味しいので、バターを塗ってない状態の方が好き。

4.抽出 〜オマールエビ〜
非常に楽しみにしていた一品。
調理前に、生きているオマールエビのブルーを見せられ、その10分後には提供されるスープ。
オマール、水、塩だけが構成要素。
生きたオマールをぶつ切りにして、フライパンで超高温で焼き、ミキサーにかけて抽出されたビスク。

まず、提供された際に立ち昇る香りが凄い。圧倒的。
香りの種類としては、甲殻類を焼いた香ばしさだが、ありがちな臭みが全くなく、ただただ香ばしく美味しい香り。
スープを一口飲むと、非常に強い旨味、甘み、香ばしさを感じるのに、後味がスッと消える。
濃いのに、濃厚というわけではなくキレがある。濁った色合いなのに、とてもクリアな味わい。
オマールの美味しいところだけを抽出しました、という味。
素晴らしい。

5.シンプル 〜椎茸〜
米、椎茸、水、塩、米油のみの構成要素。
椎茸の1番美味しいところだけを抽出してスープを取る。そのスープで作ったリゾット。
提供された瞬間の香りに圧倒される。椎茸ってこんなに良い香りしたっけ?
食べてみると、圧倒的な椎茸の旨味が怒涛の勢いで押し寄せてくるのに、雑味・嫌味が全くない。
椎茸の美味しさを120%引き出している、という感じ。
そして、米がもう美味しすぎる。ぷっくらしていて、表面が滑らかで、歯を立てるとぷっつり切れる歯応え。米の味も濃いというか、美味しい。語彙力を失うほど美味しい米。
椎茸と米を合わせた料理なのに、椎茸そのものを焼いて食べるよりも、椎茸の"美味しさ"を感じられるという印象。
もちろん椎茸を炭火で焼いて塩で味付けした方が椎茸を感じられるだろう。しかし、その調理には椎茸の美味しさだけではなく、椎茸の美味しくない部分も必ずセットになっている、ということに気付かされた。
この料理は、椎茸の美味しいところだけを取り出し強調しているのだ。

6.トマト畑 〜トマト〜
パスタの上にトマトソースがかかっているのだが、実はパスタの下にトマトのヘタを使った鮮やかな緑色のソースが隠れている。
これでトマト全てを表現しているとのこと。
この発想に強烈な感銘を受けた。

トマトソースのパスタはシンプルに作れば作るほど、味わいが似てきてしまうと思うが、トマトのヘタのソースのワイルドな青い香りによって、全く新しい味わいになっている。
その定番中の定番の料理を、”削ぎ落とし”&”本質を追求する”というアプローチで新しい境地を切り開いた発想力と手腕に脱帽。
本当に目から鱗が落ちました。

7.抽出麺 〜イワシ〜
料理を作る前に丸々太ったイワシを見せられ、その10分後には提供される料理。
イワシをミキサーにかけ、思いっきり沸騰させて分離させ、2度ほど濾して急冷したというスープ。
この味を例えるのなら、全く生臭さのないイワシを用意して、そのイワシを丸ごと生のままかぶりついているような味わい。
一皿の料理でこんなにイワシを強烈に感じたことはない。刺身以上。

ご覧の通り、こんなに澄んだスープなのに、恐ろしくイワシの旨味、イワシ自体の味わいが濃い。
濃いのに澄んでる。
この見た目と味わいの矛盾的なギャップに、脳が混乱してしまうのだけど、とにかく美味い!
そして、そのスープがカッペリーニとすごく相性が良い。

8.ボニュ焼き 〜蔓草牛(サーロイン)〜
凄まじい。
これ以上美味しいステーキ、というか肉料理が想像できない、というレベル。
またもや、提供された瞬間の香ばしさが凄い。
表面がサクッサクに焼き上げられていて、中は均一な火入れ。ちゃんと中心まで暖かい。
塩加減も完璧。
そんな御託がどうでも良くなるくらい、意味が分かんないくらい美味しい。

サクッとした皮に歯を立てると、極薄の膜が何百or何千と積み重なったかのように肉の繊維がほぐれる。この食感が気持ち良すぎて。
頼りなく繊細にほぐれる感じじゃなくて、おかしな表現になってしまうが、『力強くほぐれていく』という感じ。
肉がほぐれると同時に、強烈な肉の旨味をたたえた肉汁が溢れ出る。
肉の赤身の美味しさと脂の美味しさがバランス良く同居している。
これは美味しすぎる。

肉料理に合わせて選んだ赤ワイン。

ワインについての知識&表現力が乏しいので説明は控えさせていただくけれど、驚くほど美味しい!
他のワインから感じたことない香り成分が豊かで、香り成分の総量がすごい!
味わいは、タンニン感が少なくて、滑らかで、スッと舌を撫でるような舌触り。それでいて果実味はリッチ。

9.ボニュ焼き 〜竹の谷蔓牛(サーロイン)〜
店名を冠した、ボニュのシグネイチャーディッシュのひとつ。
竹の谷蔓牛は世界中でもボニュでしか食べられない、超希少牛肉。
肉の表面は、香ばしさを極限まで引き出すように強火で焼き、中は均一に焼き上げるという、とんでもない技術で火入れがなされている。

サーロインとは思えないほど、脂肪分が少なく赤身質な肉。
食感もとてもしっかりしているが、"硬い"という印象では全くない。
赤身の旨味が物凄く強烈で力強い。
攻撃的なほどの旨味。
噛めば噛むほど美味しくて、"肉"を感じられる一皿。
肉の概念が変わる一皿でした。

10.ボニュ 〜ミルク〜
ミルクに一切加熱せず、ミルクに砂糖を溶かして作ったアイスクリーム。
ふわりと、エアリーで軽い。軽やか。
そして、加熱してないミルクの風味が優しくて、やわらかくて、すっきり澄んでいる。
美味しい。

11.ナチュラル 〜神果卵〜
卵黄だけを足すのは不自然という発送から、全卵のみを使い、卵・ミルク・砂糖のみで仕上げたプリン。
卵とミルクの比率をギリギリまで見極めて作られており、滑らかだけど、なんとか固まるというラインに調整して作られているらしい。
とにかく滑らかできめ細かい。
甘さも絶妙。カラメルはかなり追い込んでいて、苦味がはっきりしていて、香りの要素がたくさん引き出されている。
美味しい。

12.水チョコ
カカオと水だけで練り上げた一品。
とても難しい技術を要するとのこと。
持ち上げるのも難しいくらいやわらかい。
口にいれると、なんとも美しい口溶け。
ふわっとすっきり溶ける。
溶けるのだけど、ミルクを使ってないからとにかく軽い。軽いのに、すごく濃厚。この矛盾する性格が同居していることが凄い。
そして、カカオの美味しさがダイレクトに伝わる。
これもまた恐ろしい美味しさ。
来栖さんが繰り返し言っていたのが、
『美味しいことは最低条件。美味しさを追求することよりも素材の味わいを引き出すことの方が優先順位が高い』
その理念を、全てお皿から感じることができた。
素材、水、塩、オイルだけしか使われていないのに、これだけの味のバリエーションが作れるのは驚異的だ。
食材の使い方の惜しみなさ(例:オマールビスク)、素材の美味しい部分だけ引き出しすこと、に心血を注ぐとここまで料理は進化するのかと驚いた。
お会計は、料理4万円+お酒5800円×3+消費税で6万半ばくらい。
その金額以上の勉強があった。
今回いただいた料理に甲乙をつけるという行為自体が非常に気後れしてしまうのですが、自分へのメモ的な意味も含めて、美味しかったBEST3のランキングをつけるのであれば・・・
① ボニュ焼き 〜蔓草牛(サーロイン)〜
②ビーフジャーキー
③シンプル 〜椎茸〜
特に、③シンプル 〜椎茸〜 に関しては、椎茸というありふれた食材を使って、ここまでの味わいを作り上げたことに、感動を超えた感動を覚えました。
”料理”というもの自体に対する価値観も変わったし、食材ともっともっと向き合わなければいけない、と反省もありました。
必ずまた訪れたい!
最高の勉強と経験になりました!
四川式汁なし担々麺専門店「タンタンタイガー」を2016年8月10日に蔵前にオープン!
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